ストラヴィンスキー

イーゴリ・ストラヴィンスキー(Igor Fyodorovitch Stravinsky、1882 - 1971)


バレエ音楽

  • 『火の鳥』(L'Oiseau de feu, 1910年)
    • 4.0点
たった1年の違いであるが、ペトルーシュカと比較すると刺激が少なくて、かなりノーマルな曲である。地味で物足りないと初めて聴いたときは思ったが、よく聞くとやはり面白いフレーズがたくさんある。超絶的ではないにしても、かなり刺激的な音楽である。それとともに、音の使い方のセンスの良さに立脚した、かなり発想が斬新ながらもいい音楽がそこかしこで現れており、いい曲だなと純粋に感じられる場面がかなり多い。自由でファンタジー的で、幻想的な映像を見ているかのようである。

  • 『ペトルーシュカ』(Petrushka, 1911年)
    • 4.5点
春の祭典の高みの一歩手前とは思うが、この作品も匹敵するくらい非常に素晴らしい。様々なイメージが奔流のように湧き出てくる。刺激的な音が次々に飛び出して、息もつかせない。とにかく面白くてたまらない。圧倒的な面白さという点ではクラシック音楽でも屈指だろう。意外な音が出て愉しい気分になったら、また全然違う音が飛び出す。おもちゃ箱のような曲だ。

  • 『春の祭典』(Le sacre du printemps, 1913年)
    • 5.0点
センセーショナルさを現代でも失わず、それでいて古典的な完成度である。鮮やかなリズムと和声、印象的なメロディー、野生の匂いをぷんぷんと漂わす音楽は、強烈な魅力を放っている。音楽の複雑さが絶妙であり、最大級の効果を発揮している。聴く前から心躍るし、聴きながらもずっと楽しく音楽に酔うことが出来る。

  • 『プルチネルラ』(Pulcinella, 1920年)
    • 3.0点
組曲版で聴いた。不協和音がなく平明ながらも現代性のある音楽というのは斬新なものだとは思う。この独特な世界はなぜか印象と記憶に強く残る。一方で、純粋にいい曲と思うかというと、あまり思わないのが偽らざる感想である。新古典主義に入ったという音楽史的な意義の大きさに匹敵するような感慨は得られないと思う。編成が小さくて、アイデアも豊富ではないように感じる。初期の三部作が圧倒的すぎるせいかもしれないが。

  • 『結婚』(Les Noces, 1923年)
    • 3.3点
野蛮で原始的な響きに支配された、声楽主体のバレエ音楽。聴いた感じのインパクトはかなり強い。しかし、声楽主体で声楽の使い方は似たものが続くため、音の多様性が少なくなっており、よく理解できない。リズムやピアノの使い方などに圧倒される楽しさと、ストラヴィンスキーらしい音のセンスの良さを愉しむことは出来る。

  • 『ミューズを率いるアポロ』(Apollon Musagète, 1928年;改訂1947年)
    • 3.3点
弦楽器だけの合奏のため、どうしても刺激が少なくて地味になっている。ただ、芳醇な弦の響きと音の動きの滑らかさ柔らかさが魅力になっていて、これはストラヴィンスキーのバレエ音楽の中で特徴的な魅力になっている。新古典主義ということで、この曲も不協和音や前衛性はないが飽きにくいものになっている。ただ、弦楽合奏の機動力の低さのためか、聴いていてだんだん物足りなくなっていく。新古典主義の表現の限界も感じる。

  • 『妖精の接吻』(Le Baiser de la fée, 1928年;改訂1950年)
    • 3.5点
まさにチャイコフスキーの音楽にインスピレーションを得たバレエ音楽である。音の取り扱いにおける、華やかさとダイナミックさ、動きの舞台的で、心を踊らせて、人の身体をも踊らせようとするような内在的なパワーを、そして時に愛らしい愛嬌や幻想的で魅惑的な魅力をこの曲も持っている。しかし勿論、深いレベルのインスピレーションの結晶であり、全然表面的な真似ではない。高く評価してよいか迷うがなかなか楽しめるのは間違いない。

  • 『カルタ遊び』(Jeu de Cartes, 1936年)
    • 3.5点
新古典主義らしい不協和音はないが、19世紀らしい制約のない自由な新しい響きの楽しさを存分に味わえる。バレエ音楽らしい音の活力と物理的にフワフワとした感じも良く出ている。圧倒的な何かこそないが、プルチネルラよりはずっと良い。エンターテイメント的な楽しみで、音楽に浸れる。

  • 『バレエの情景』(仏:Scènes de ballet, 1944年)
    • 3.3点
新古典主義の滑らかで穏やかな音楽が心地よい。情景というタイトルはかなり適切かもしれない。少しチャイコフスキーのような饒舌で音が踊り躍動する感じがあるが、冷静にみていつものストラヴィンスキーという気もする。練達の音の魔術を発揮した曲で、さすがと唸ってしまう。

  • 『オルフェウス』(Orpheus, 1947年)
    • 3.3点
密度が薄い。映画のバックミュージックのように雰囲気を一定のまま少しずつ変遷させていくだけの音楽である。とはいえ、単体で聴くぶんにも、個別部分のセンスは感じるためエンターテイメントとしては楽しめる。新古典主義的だが平明すぎず、ある意味で円熟した技術と精神の熟成感ともいうべき良さがあると思う。

  • 『アゴン』(Agon, 1957年)
    • 2.8点
晩年の音が薄く枯れた感じが印象的。老人になったストラヴィンスキーはさすがにインスピレーションが衰えているのを感じる。場面は刻々と移っていき、バラエティは豊かだが内容があまり豊富という印象がない。新しい音世界を75歳になっても作り続けたことはすごい。しかし、音や楽想のつながりの有機性が足りない。

バレエ以外の舞台作品

  • 『兵士の物語』(L'Histoire du soldat, 1918年)
    • 3.0点
基本的には特殊編成による軽妙な新古典主義作品に聴こえる。かなりコミカルなところが面白い。また、まだ純数に単純化された新古典主義音楽になりきっていないところが魅力か。土臭いところが残っていて、親しみやすさを感じた。全曲盤は語りの時間が半分以上を占めていたからあまりお勧めできない。

交響曲

  • 交響曲第1番変ホ長調 Op.1
    • 2.5点
これをストラヴィンスキー作曲と当てられる人は少ないだろう。驚くほどロマン派の先達の模範に則った音楽であり、新奇性が少ない。それどころか、ストラヴィンスキーらしさすら私には見つけ難かった。開放的であり、機能的な近代管弦楽法が使われている。19世紀の様々な作曲家の要素が現れているのが分かるのが面白い。華やかさはあるものの平凡でオリジナリティーが少ない、のちの天才を感じにくい曲だと思う。

  • 詩篇交響曲(Symphonie de psaumes)
    • 3.5点
全3楽章。合唱付きでヴァイオリンとヴィオラなし。1楽章は前奏曲ということで、最初の盛り上がりを作る単純な曲。2楽章は神秘的な管楽器の合奏で始まり、合唱も神秘性と荘厳な宗教性を帯びている。3楽章は一番長い。辛気くさい宗教性を感じさせてから、場面転換をしながらじわじわと盛り上げていく。どちらかというと宗教曲にいが、本格的な精神性や、構成が透徹していて作り込みを感じるので、交響曲としてもあまり不満はない。響きに明快さと複雑さがあり、よくまとめられておりバランスがよい。ヴァイオリンが無いことでオケがくすんだ響きになり合唱を浮かびあがらせ、奥の深さを演出している。良くできた作品である。

  • 交響曲ハ調
    • 2.3点
全4楽章30分。正直なところ新古典主義らしい明確でシンプルな音の構成であり、ハ長調らしい素朴さがあるなあ、くらいの感想しか持てず、鳴っている音の意味を感じ取ることが出来なかった。耳をそれなりに楽しませるストラヴィンスキー独特の管弦楽の扱いと内部の複雑さがあることで、辛うじて聴き通せる。交響曲らしさも希薄。

  • 3楽章の交響曲(Symphony in 3 Movements)
    • 3.0点
1楽章は二次大戦の事件を連想させる強烈さもあるが、映画音楽のような軽さとジャズの要素もある多彩な曲。ピアノ独奏の活躍はかなり控え目。
2楽章はハープが活躍し、多少社会的な深刻さを醸し出しながらも、流麗な多彩さがある。3楽章も多彩な楽しい曲。全体に、交響曲を名乗るだけの普遍性と構成感は一応あり、ストラヴィンスキーにしては重さもあるのだが、とはいえバレエ音楽に近い雰囲気であり一般的な交響曲とは違う異色の作品。

協奏曲

  • ピアノと管楽器のための協奏曲
    • 3.5点
管楽器だけだが、吹奏楽のようではなく、オーケストラ風である。弦がないため音のキレが良く乾いており、湿っぽさがない。1楽章は複雑で前衛的な切れ味鋭い系統のピアノソロが続く。音が絨毯爆撃のようにガンガンと演奏されるとともに、リズムの複雑さで楽しませる。なかなかの迫力である。2楽章は一転してラヴェルの協奏曲のような叙情性だが、そのあとは期待通りに捻りの入った展開をみせる。3楽章は押せ押せで気持ちいいし面白い。とても聴き映えのする曲で内容豊富。名作というほどではないが、なかなか楽しめる。

  • カプリッチョ(Capriccio) - ピアノと管弦楽のための
    • 3.0点
全3楽章17分。ピアノのテクニックはあまり超絶技巧という感じはしないが、音数が多く十分に派手である。新古典主義時代の音楽とピアノ協奏曲の相性がよく、スリリングで新しい事が次々と起こるような作品となっていて耳を楽しませる。初期の原始主義的な音楽の雰囲気が出ている感あり、冷静で客観的すぎる新古典主義の曲の中では聞きやすい。

  • ヴァイオリン協奏曲ニ調
    • 2.8点
1楽章はトッカータの名の通りの曲調。多くの楽器が軽快に刺激的に活躍する楽しい曲。2楽章はアリアといいつつ、前半は割と活動的で、管楽器が活躍したりする。後半は泣きの入ったフレーズも登場し、アリアらしくなる。3楽章は軽快なフレーズを執拗に積み重ねる曲。全体に軽快で楽器が多彩に音を重ねながら扱われて耳を楽しませるし、独特の音使いによる独奏も面白い。しかし、構成や雰囲気が軽すぎるし即興的に感じて、腹に落ちる感じがない。

  • 協奏曲『ダンバートン・オークス』(Dumbarton Oaks Concerto)
    • 3.0点
全3楽章14分。小編成の合奏協奏曲。この時代にしては割と親しみやすい。メロディーは断片的で分かりにくいが、くつろいだ落ち着いた雰囲気で、楽器数も15人と少なく音の複雑さを楽しみやすい。

  • エボニー協奏曲(Ebony Concerto)
    • 2.5点
クラリネットとジャズバンドの曲。3楽章11分。ストラビンスキーのジャズの影響を端的に味わえる曲として面白いのだが、曲自体は評価やコメントが困難だと感じた。

  • 弦楽のための協奏曲ニ調(バーゼル協奏曲)(Concerto in D for String Orchestra (Basle Concerto))
    • 2.8点
全3楽章12分。バーゼル協奏曲とも呼ばれる。弦楽だけなので音のバラエティーが少ないが、その代わりにまったり感が強くて、2楽章の優美さなどの目新しさが出ているし、声部が少ないので、良くも悪くも難解さが少ない。

室内楽曲

  • エレジー
    • 2.8点
無伴奏ヴィオラ用の曲。ルネサンスの宗教曲のような雰囲気のコラールであり、人の声に近いヴィオラの特徴が活かされている。面白い。

  • 八重奏曲
    • 3.5点
様々な管楽器の軽快な扱いと新古典主義の作風が非常にうまく合致していて、よく出来た作品に聴こえる。夢に出てきた編成で書いた曲とのことだが、編成として成功している。おもちゃが跳ねて踊って遊ぶようなイメージであり、諧謔的で可愛らしくて軽くて愉しい。楽章に分かれているわりには雰囲気は変わらないが愉しさに浸れるため気にならない。

  • 七重奏曲
    • 3.3点
12音技法らしいが調性感がある。編成はピアノが入っているのがよい。ピアノの使い方がうるさくなくてセンスがいい。1楽章はセンスがよくて、明るい旋律もよくてなかなかの名曲と思う。しかし2楽章以降はあまり面白くない。レベルが落ちてしまう。

  • 弦楽四重奏のための3つの小品
    • 3.0点
バグパイプ風だったり、特殊な現代音楽風だったり。3曲目は魔法のような神秘性がある。断片的ともいえる曲が3つ並んだ合計7分の小品で、好奇心のような刺激を受ける。

ピアノ曲

  • 『ペトルーシュカ』からの3楽章
    • 3.5点
超難しいことでコアなピアノ曲ファンには有名。ペトルーシュカのエッセンスが詰まっていて楽しいし、無茶なフレーズをあっさり弾きこなすプロの技も楽しめる。

  • ピアノ・ソナタ(1924年)
    • 3.8点
1楽章は硬く前衛的で、即物主義的でもある。かなりのセンスを感じる。2楽章は不協和音を使ったやはり前衛的な曲で、音のセンスがかなり良いと思う。3楽章は無窮動ではじまり両手の2声が蠢めく。全般にプロコフィエフを連想するのだが、非常にセンスが良く、彼の一連のソナタ勝るとも劣らない名作だと思う。

  • 最終更新:2016-12-15 22:33:09

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