ブルックナー

アントン・ブルックナー(Josef Anton Bruckner, 1824 - 1896)


人間的感情に欠けるので聴き始めても最初はどこがいいのか分からない。長い全曲を何度も聴いて覚えて大自然の必然に身を置くように曲の流れに身を任せられるようになると、気持ち良くてやめられなくなる。一見禁欲的なようでいて、個人的には実は快楽的な音楽であると思う。

交響曲

  • 交響曲ヘ短調
    • 3.0点
初期の交響曲。もっと普通の曲かと思ったが既にブルックナーらしい世界である。まだ未熟で書法が単純であると感じるところはあるが、とはいっても十分な複雑さがありブルックナーが好きなら飽きずに楽しめるもの。茫洋とした雰囲気は0番などに似ている。曲がコンパクトで聞きやすく、各楽章を楽しめる。ブルックナーの作った世界の生い立ちを知る上でヒントを得られる点で興味深い。

  • 交響曲第1番ハ短調
    • 3.3点
ブルックナー生来の音は既に鳴っているが、まだオーケストラの使い方に荒削りさが気になるし、構成もブルックナー独特のものに固定されておるず発展中である。アダージョとスケルツォは特に魅力がある。初期であり完成度は後年のものには及ばないが、雰囲気に若い新鮮さもあり、案外聴きがいがある作品。

  • 交響曲第0番ニ短調
    • 3.5点
番号カウントに入っていない作品であり、後日改訂されていない作品である。しかしブルックナーらしい音はしっかりある。まあ、若い作品といっても45歳だから、いろいろ確立しているのは当然かもしれないが。茫洋とした雰囲気と、独特の力強さと不思議な世界観を見せている。なにより若々しい生命感と活力と感受性の発露があり、爺さんになってから書いた曲とは違った素敵さがある。2楽章の薄暗い曙光と冬の空気の雰囲気はロマンティック。3楽章のスケルツォはかなり秀逸で、霊感にあふれた巨匠的な内容のもの。4楽章は威勢が良くて、もったいぶってないのが爽快。

  • 交響曲第2番ハ短調
    • 3.5点
初期の作品であり、まだ精神の深い所に沈んでいく感じはなく、浅い。しかし、ブルックナーらしさは完成されてきており、構成が固まってきている。アダージョに感動的な魅力があるし、他の楽章もバランスがよく、既に大交響曲作曲家の一歩を踏み出している。

  • 交響曲第3番ニ短調(『ワーグナー交響曲』)
    • 4.5点
この作品は作品番号は若いが、晩年に改訂されているため、晩年のような充実感もある。冒頭のメロディーから強く心を奪われる魅力があり、曲の全体の随所に非常に魅力的な旋律や場面がある。交響曲の中では規模が大きすぎずバランスも良いため、ブルックナーの中では正統派な構成になっていて、活力に溢れつつも、魅力にブルックナーならではロマンティックさとも言える突き詰めた魅力が溢れている。非常に魅力的な交響曲の一つだと感じている。8番を巨大すぎない大きさにして若々しいインスピレーションを取り入れて演出的な欠点を取り除いた感じとまで思うようになった。ただしブルックナーで頻発する場繋ぎの部分は弱さがある気はする。

  • 交響曲第4番変ホ長調『ロマンティック』(Romantische)
    • 3.8点
ブルックナーの中では短くて分かりやすいため入門に良い。全体にメロディーが良く、バランスも良く、長すぎないため曲を把握しやすい。明るく適度な開放感のある雰囲気は、聴いていて素直に楽しいと思わせるものがある。しかしながら、私は3番以降の中でもっとも苦手である。おそらく中庸さとかプルックナーらしい壮大さを抑えていること、なんだか旋律がもっさりしているのが気になる。彼の作品の中でこの曲が一番有名というのは、分かりやすさを考えれぱ仕方ないと思う一方で、自分は苦手なので残念である。「ロマンティック」という副題であるが、ロマン派音楽の感覚でいえば全然ロマンティックではないし、ブルックナーの交響曲の中でもロマンティックさは少ないと思う。単に旋律にロマンティックと形容したい節回しがところどころあるだけかと思う。

  • 交響曲第5番変ロ長調
    • 5.0点
最初は、冒頭から聞いていくとブルックナーが感じさせるある種の快感がこの曲には少なく、聞いた後の疲れが多くて、とっつきにくくて幻想的かつ思弁的という印象だった。第一楽章の第一主題に自分としてはあまり魅力を感じず、それの使い回しが多いのを残念に感じていた。しかし、この曲を理解してからは、ブルックナーで最も優れた作品の一つであると思うようになった。やはり最大の魅力は最後のコーダにあるだろう。これほどまでに壮大な高揚感をたっぷりと時間をかけて味合わせてくれる作品を他に知らない。また冒頭の前奏からのコラールは心躍るし、2楽章は無茶苦茶良い曲である。4楽章の対位法的部分は、晦渋さもあるがこれを再現部からのコーダに向かう部分へのエネルギー補充のように聞けるようになってからは楽しめるようになった。

  • 交響曲第6番イ長調
    • 4.5点
演奏回数が少ないが、作品のできの良さから言えば他の交響曲と全く引けを取らない。ブルックナー休止がなく規模もやや小さいことから、少し異質な作品ではある。2楽章はブルックナーの曲の中では珍しく人間的な愛情のようなものが感じられる。何度も繰り返されるメロディーや、しなやかな深さをもって心をゆり動かす魅力は素晴らしい。また1楽章はリズム感が珍しく行進曲のような勇壮であり骨太なゴツさがあり、最後のスターウォーズのような場面でド派手に締めくくる場面まで濃密でかなり出来が良いと思う。後半の楽章もそれぞれに魅力があって、楽しめる作品である。

  • 交響曲第7番ホ長調
    • 4.5点
1楽章は冒頭からメロディーが分かりやすくブルックナーにしては珍しく初聴で感動できるため最初の入り口には良いと思う。壮大な光に包まれるような、田園的な心地よさと包み込むような柔らかさに満ちている冒頭には心を奪われるだろう。2楽章は葬送のような悲しみと思い出の重みが見事に音にされた作品であり、個人的には自分の父が重い病気になった時の悲しみの中でずっと聴いて泣いていた作品である。前半2楽章は素晴らしいのだが、少し長すぎるため、他の曲のような複雑さが少なく旋律に頼ったことで冗長になってしまった感がある。後半の2つの楽章も楽しめるし、最後の楽章が軽すぎるという批判を見るが個人的にはウキウキとする楽しい音楽である。

  • 交響曲第8番ハ短調
    • 5.0点
圧倒的なスケールの正統派で雄大な作品。明るくポジティブな推進力があり、何度でも楽しめる。すべての楽章の完成度が高い。1楽章はあまりメロディーが無く、動機を使った運動的な曲。巨大な曲でありながら、全曲の中では序章に過ぎないのが凄い。個人的には大好きである。2楽章はそれを展開するが、まだ序章その2という感じだ。この楽章は旋律の魅力が足りないと思う。3楽章からが本編である。精神世界の深い部分を逍遥するようなすばらしさ。特に第2主題の絶妙さは驚異的。コーダが最高である。4楽章の大自然の満点の星空のような雄大さと、アルプスの巨峰のような存在感の、稀にみる巨大スケールの曲。しかしながら、ブルックナーの他の曲を聴いていくうちに、この曲に若干の演奏会受けを狙った聴衆への分かりやすい演出が気になるようになった。また、2楽章の旋律の魅力のなさ、4楽章は壮大だがそれが目的になってしまっていること、最後は主調の和音が延々と続くことなどの欠点が目につくようになってきた。

  • 交響曲第9番ニ短調
    • 5.5点
4楽章が未完成。この曲はブルックナーの曲の中で密度の高さが大きく異なる。他の曲は曲の流れに身を委ねるのが気持ち良くて、聞き終わったらもう一度聴きたくなるが、この曲は胸が一杯になって満足感でしばらく動けなくなるような感じである。3つの楽章とも、8番の同じ楽章と比較するとより優れていると思う。この交響曲は人間的な愛情や信仰心といった感情をかなり強く感じさせる点が、ブルックナーの中で異質である。またピアノで音を出してみると、音づかいがそれまでとは違い前衛的であり、かなり違う作りになっていることがわかる。年齢的にかなり歳を取ってから、このような世界に足を踏み込んだブルックナーに驚いた。8番のような聴衆を意識した演出的なものはない。特に3楽章は何かの神秘的なものの顕現をそのまま音楽にしたようなもので、ちょっと類を見ないような異次元な境地に到達している。

室内楽曲

  • 弦楽五重奏曲 ヘ長調 1878-79
    • 3.8点
1楽章と3楽章が特に良い。1楽章は典型的なブルックナーのソナタ楽章だが、主題に魅力があり、規模の大きさと内容の充実があり、やや交響的なスケールを見せながらも室内楽としても魅力があり、満足感がある。3楽章はブルックナーの得意な息の長くたっぷりとメロディーをしなやかに感動をもって聴かせる美しい曲。これも彼の特質を発揮出来ている。2楽章はスケルツォとして間に入れる曲としてセンスが良い。4楽章が弱く、この曲の弱点になっている。旋律が弱くて、室内楽として最終楽章で出来ることをうまく発見出来ないまま書かれたように感じた。

  • 間奏曲ニ短調
    • 3.3点
一度弦楽五重奏曲の2楽章として差し替えられた後に、また外されて独立された。ウィーン的な上品さとブルックナーらしさが融合している面白い曲。しかしパンチが効いていないので、弦楽五重奏曲の中に入れるのは気分転換の図れるスケルツォの方が良さそうであり、ブルックナーの判断は正しいと思う。

合唱曲、宗教曲

  • テ・デウム
    • 4.0
ブルックナーの宗教音楽の中の力作。交響曲のイディオムを合唱曲で使っているのだが、ダイナミックな音使い、ユニゾンの使い方などが、神々しい光を放って圧倒的に響くさまは、聞き込むほどに見事なものだと関心する。楽想の豊さと、構成の壮大さ、見事さといい、最後の二つの交響曲に近いほど重要な作品と感じる。交響曲と同様に何度も繰り返し聴いていくと、より素晴らしく聞こえてくる。短い部分に分かれているため、むしろ交響曲より聴きやすいかもしれない。

  • ヘルゴラント
    • 3.8点
ブルックナー最後の作品。男性合唱の力強さが、ダイナミックな管弦楽とあいまって、なかなかの聴き応えある作品となっている。交響曲9番の時代ならではの、さらなる複雑さと神秘性を伴った響きが聞き物。そして高揚感も楽しい。最後の大円団はワクワクする楽しい音楽。なぜこれがマイナー曲なのか分からない。

  • 詩篇150
    • 3.3点
晩年の合唱作品。8分程度であまり長くないので、その分だけブルックナーの良さが完全には発揮されていない気がする。音の動きはかなり激しいのだが、野太さというブルックナーの特質が出し切られていないなど、ややブルックナーに期待するものが足りない。晩年らしく練達された作曲技法は使用されていて、楽しめる作品ではある。

  • 最終更新:2022-02-12 00:21:47

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