ブリテン

ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten) 1913 - 1976)


主要曲はどの曲も独自の世界感をもった力作である。独特の音世界を持ちつつも、シリアスで深みがあり芸術性が高い。オペラが得意だったようだが、器楽曲作曲家としても20世紀を代表する大作曲家である。

歌劇

  • 「ピーター・グライムズ」作品33 Peter Grimes(1944~45)
    • 3.5点
前半だけ聴いたが、なかなかファンタジックで現代的な曲。音だけでも強く主張があるのでそこそこ楽しめる。

合唱曲

  • キャロルの典礼 作品 28「A Ceremony of Carols」(1942)
    • 3.0点
美しい合唱曲。独特のブリテンらしい音使いと感動的な合唱の編曲の融合は効果的。

  • 春の交響曲 作品44 Spring Symphony(1949)
    • 3.0点
12の歌曲からなる作品。オラトリオに近いが構成としてまとまりと展開があり交響曲という命名に違和感はない。やや晦渋であるが、スケールに巨大感があり、厳かで不思議な大いなる雰囲気を充満させて、独特の世界を強靭なイマジネーション力で展開しており、合唱曲作家としての力量をみせている。とはいえ、天才的な発想の妙というレベルには達していないと思う。

  • 戦争レクイエム 作品66 War Requiem(1960~61)
    • 3.8点
声楽の大作曲家であるブリテンの全霊を傾けた作品だけあり、かなりの凄みをもった作品になっている。暗くて重いだけのレクイエムではなく、独特の音空間の美の中で、場面により鎮魂的な雰囲気に沈み、歴史性や社会性をみせることもある。大作であり、多くのインスピレーションを注ぎ込んだ多くの場面は、映画のような移り変わりを見せる。戦争の悲劇性を芸術家として芸術に昇華させつつも、生々しさももたせて強く訴えている。世界の闇と悲劇のモニュメントを作ろうという意思を感じる。

管弦楽曲、協奏曲

  • シンフォニエッタ 作品1(1932)
    • 2.8点
18歳の作品とのことだが、すでに完全にブリテンらしい音の使い方が全体を支配している。まとまりを産む音楽のコントロール力とか表現の奥深さは欠けているように思われて、作曲者が何をしたいのか掴めない。最後まで理解できないまま曲が終わってしまった。だからあまり感動するものではないが、とにかく18歳でこの世界を産み出したことには驚かされる。

  • シンプル・シンフォニー 作品4 Simple Symphony(1933~34)
    • 3.3点
弦楽合奏か弦楽四重奏の曲。シンプルで明快で爽やかだが、単なる単純な曲ではない。分かりやすい捻りではなくブリテンらしい独特の新鮮な感覚が発露していることにより、未聴感を感じさせる。この曲の感性そのものを刺激するような新鮮な感覚は面白い。作曲者の感覚の鋭さが為せる技だろうか。とはいえ、若書きであり深みはないため物足りないところはあるし、全体的にみて感動するほどの名作ではない。

  • ソワレ・ミュージカル 作品9(1936)
    • 3.0点
ロッシーニの曲を使って書いた軽妙で明るい娯楽的な音楽。ブリテンらしからぬ底抜けの明るさで爽やかで聞いていて気分は良いが、単にそれだけであり他の作曲家でも書けそうなレベルである。

  • フランク・ブリッジの主題による変奏曲 作品10 Variations on a Theme by Frank Bridge(1937)
    • 3.3点
弦楽合奏。26分。10の変奏曲は工夫が凝らされてバラエティーに富んでおり、弦楽合奏によるブリテンの語法での曲として可能な限りの全力を注いでいるのが分かる。主題はあまり印象深くないが、この曲の場合は関係ない。音楽のバラエティーと複雑さに感心するとともに、シニカルな陰影を持っていて精神的深みもそれなりにあり聴いていて飽きない。弦楽合奏の自由さがよい方向の結果に繋がっている。

  • ピアノ協奏曲 作品13(1938/45)
    • 3.9点
1楽章は色彩的で機動性の高いオーケストラと、軽快にパラパラとフレーズを弾く雰囲気がラヴェルを連想する。2楽章も明確な個性がある曲。3楽章は3番に似ている場面があり曲の雰囲気もプロコフィエフを連想した。4楽章は再びラヴェル風ブリテンという感じ。全体的な作品としての大きなレベルでのまとまりに欠けているので聴き終わるとがっかりするのだが、個別の部分においてはピアノも華やかだし、はっとするような耳を捉える部分は多い曲。

  • ヴァイオリン協奏曲 作品15(1939/58)
    • 2.8点
あまり面白くない。運動性に難のあるブリテンの音楽性が明らかにマイナスに働いている。協奏曲らしい醍醐味がなく、ソロが有効に機能していない場面が多い。音楽性の観点でもブリテンにしてはあまり高くないと感じた。2楽章だけはそれなりに楽しめたが、他は残念に感じた。チェロ交響曲をさらに物足りなくしたイメージ。

  • シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20 Sinfonia da requiem(1940)
    • 3.8点
全3楽章。声楽はなし20分。1楽章は沈鬱な鎮魂の雰囲気でまさにレクイエムのような曲。2楽章の怒りの日は、音の乱舞の仕方がなかなか秀逸である。激しくてもやりすぎにならず、落ち着いた間の取り方があるのがブリテン。3楽章は平和の祈りだが、地に足の着いた霊が天上に舞い上がっていくような音楽で、非現実的な理想ではなく妙な実在感のある世界平和が表現されていると思う。素晴らしい。オネゲルと比較したくなる20世紀的な交響曲であり内容充実の名作である。ただ、皇紀2600年奉祝曲として日本から委嘱された曲だが演奏されなかったそうだが、確かに全くそぐわないのは笑える。

  • 左手のためのディヴァージョンズ(主題と変奏) 作品21 Diversions on a Theme for Piano (Left Hand) and Orchestra(1940/54)
    • 3.5点
左手だけのピアノというのがブリテンによく合っている。片手ゆえに音が厚ぼったくならず、美的センスで聴かせる音楽性がよく出ている。軽快で心地よいピアノとバリエーション豊かで多彩な音楽は、次を聴きたい衝動を最後まで引っ張って続けることに成功している。ラヴェルのような旋律の美しさやエモーショナルさは無いのと変奏曲ゆえの軽さがあるが、楽しんで聴ける。

  • 4つの海の間奏曲 作品33a 4 Sea Interludes(「ピーター・グライムズ」より 1944)
    • 3.8点
4曲とも近代的な管弦楽らしい豊富な表現力を活用した音楽的なイメージ表出力が素晴らしい。SF的もしくはファンタジー的な超常的世界をイメージする。優れたインスピレーションが4曲とも発揮されており楽しめる。

  • パッサカリア 作品33b Passacaglia(「ピーター・グライムズ」より 1944)
    • 3.0点
ブリテン流の不思議さとブライトな響きでパッサカリアを料理するとこうなる、という音楽。同じ低音の継続とその他の楽器の音の流れの違和感の落ち着かなさを愉しむ音楽だが、期待以上ではなく予想の範囲内である。

  • 青少年のための管弦楽入門(パーセルの主題による変奏曲とフーガ) 作品34 The Young Person's Guide to the Orchestra - Variations and Fugue on a Theme of Henry Purcell(1946)
    • 3.0点
パーセルによる主題は印象的なのだが、その後の変奏は、コミカルでファンタジックではあるが、幻想的で変幻自在すぎてついていくのが大変である。その点で、典型的な入門曲という感じより、ブリテン独特の世界の中の楽器入門になっている。決して分かりやすくないし、とり立てて音楽が優れている感じはしない。

  • チェロ交響曲 作品68 Symphony for Cello and Orchestra(1963)
    • 3.0点
分厚い管弦楽で交響曲の名にふさわしい堂々たる大曲である。だが、全体を分厚い雲のように覆う陰鬱な気分には滅入りそうになる。最後の楽章で少し雲の隙間から光が差す瞬間があるだけである。チェロは活躍するが管弦楽は溶け込んで、ブラームスの協奏曲以上に一緒に音楽を作る。空間は壮大さはあるのだが、そのごく一部に存在する自分がテーマになっているようでもあり、その狭さと雰囲気の変化の少なさが物足りなさになっている。

室内楽曲

  • 弦楽四重奏曲第1番ニ長調 作品25(1941年)
    • 3.8点
室内楽というより弦楽合奏のような音の使い方である。だが、そんな細かい事はどうでもよいと思うくらい素晴らしい内容である。精神的な深み、瞑想的な雰囲気、ダイナミックな音の使い方と場面転換は、強い力で精神のドラマの世界に誘ってくれる。精神世界でたゆたう自分の魂が心地いい。しかし、美音的な良さもあり、鋭角的なバルトークやショスタコーヴィチとは別の切り口で同じくらい深い世界に到達している。素晴らしい。

  • 弦楽四重奏曲第2番ハ長調 作品36(1945年)
    • 3.5点
1番ほど分かりやすくない。何しろ3楽章は長大で静謐な世界で、自己疎外された魂の浮遊した遍歴を楽しめる。聴くのは少し大変だが、重すぎるわけでないのでウンザリしないため辛くはない。他の楽章もはじけるほどにはならず、曖昧な靄の中の音楽である。1楽章も2楽章も表面は全然違うが根底の精神性は3楽章と近いと思う。ある意味で一貫性がありすぎるように思われるのが欠点か。ブリテンらしい美しさは全開で、かなりの聞き応えはあるのだが。室内楽らしさが少ないのは1番と同じ。

  • 弦楽四重奏曲第3番 作品94(1976年)
    • 3.5点
老人の人生懐古の曲ということで良いのだろうか。老人になった自分、という存在を強く意識した孤独の独白の曲に聞こえる。もちろんブリテンらしさの中での表現である。もっとも亡くなる年の作品とはいえ63歳だから老人というほどではないか。おそらく評価の分かれる作品だろう。自分は最初は精気の無さがイマイチと思ったが、聞いているうちに強く惹かれるようになった。死の予感の虚無感と、絶対的な無に至る感覚が感じられて、感動してしまった。

  • チェロソナタ ハ長調 作品65 (1960年)
    • 2.8点
一言でいうと少し変な曲だと思う。通俗的なサービス精神はない。やりたい音を好きに作った音楽である。モノクロームな色彩感の薄い音楽であり、地味だが渋くてかっこいいところがある。自由に精神的な彷徨をするような印象でありわなかなか趣味的である。たまたま気にいる人はいるだろうが、ツボにハマらない人にとってはあまり楽しめない音楽だろう。

  • ラクリメ―ダウランドの歌曲の投影 作品48 (1950年)
    • 2.5点
ヴィオラとピアノのための作品。14分あり規模が割と大きい。複数の部分をつなげて書かれており、古い時代のものと思われる旋律が静かで不思議な雰囲気を醸し出している。しかしながら、音楽が心にすっと入り込まない。曲の長さに見合うものがない。

器楽曲

  • 無伴奏チェロ組曲第1番 作品72(1964)
    • 3.3点
詠唱のような場面が多いが、それ以外も様々な場面がある。神秘的であるとともに退廃的。孤独の精神的探索を楽しめる深さがある。チェロ1本であり短い曲ではないが充分に豊富さが取り入れられており、飽きずに楽しめる。リズミカルさが少ないのが難点と思う。全体に暗い陰があるが、そこにブリテンらしい美が添えられており、うんざりすることはない。

  • 無伴奏チェロ組曲第2番 作品80(1967)
    • 3.3点
1番ほど根暗ではない。代わりに無機質で疎外された違和感がコンセプトになっているように聴こえる。リズムがある程度ある曲が多いところが良い。心に染みる感じは少ないが、なんとなく日常のふとした瞬間に無意識に感じているであろう間隙と裏側の違和感が音楽化されているように思う。

  • 無伴奏チェロ組曲第3番 作品87(1972)
    • 2.8点
短い曲が連続で繋がっている構成。一つずつが断片的すぎて、内容が浅い。感動ポイントが少なく、イマイチだと感じたまま次の曲になり、それもイマイチというのが続く。他の2曲よりワンランク落ちると思う。

  • 最終更新:2016-12-15 22:32:22

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