ブラームス

ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833 - 1897)


ロマン派が爛熟し新奇さに走って構造の崩れた曲が増えた時代に、古典的な形式美を保持した曲を書き続けた人気作曲家。ドイツ3Bと呼ばれるのは伊達ではない。本格派にして実力派である。堅実な音楽ではあるが十分にロマン的情緒があり、素晴らしいメロディーメーカーでもある。
各ジャンルでロマン派を代表する傑作を書いた点で、同年代のチャイコフスキー、ドヴォルザークと双璧である。
難を言えば、このレベルの作曲家にしては芸風が狭く音楽がバラエティに欠けていると思う。また、いい所までいくのに突き抜けきれずにもどかしさの残るような作品が多い。一部の突き抜けられた作品はロマン派を代表する傑作になったのだが。あと、ターーラララのような手癖フレーズに安易に走ることが多いのも個人的には結構気になる。

交響曲

  • 交響曲第1番ハ短調作品68
    • 5.0点
闘争から勝利という図式が分かりやすく、ロマンチックな雰囲気を濃厚に持った名旋律が満載である。最後は楽しくウキウキした気分で締めくくられるので楽しく聞ける曲。ただし、長年推敲しすぎと気合入りすぎで多くの濃厚なものを詰め込みすぎなので、まとめきれておらず流れが不自然な箇所があったり、息苦しさを感じたりするところはある。

  • 交響曲第2番ニ長調作品73
    • 4.0点
風光明媚な土地の豊かさに包まれて生活するような、明るく田園的で広々とした気楽な雰囲気。さらさらと流れるように書かれたような緩やかさやロマン派らしい耽美的楽想と、古典交響曲的な緊密さ動機労作と、堅牢な構成の両面があり戸惑う。一楽章の第2主題は文句なしの美メロだが、それ以外はどのメロディーも惜しい。

  • 交響曲第3番ヘ長調作品90
    • 3.5点
3楽章が分かりやすい代わりに二楽章はいまいち。一楽章と四楽章は充実しているのを楽しめるものの、強い愛着を感じるほどのものでない。全楽章が静かに終わるのもなんだかなあと思う。

  • 交響曲第4番ホ短調作品98
    • 4.5点
古めかしい形式を交響曲に生かしたことは、現代からに見ると新鮮な創造性を感じる。一楽章の冒頭の魅力は素晴らしい。諦観と豊かさは見事なもの。二楽章の旋法を活用した古めかしい雰囲気も詩的で善い。三楽章も間奏的なものとして効果十分。四楽章のシャコンヌはゴツくていかめしくてめんどくさいが、創造的ではある。

管弦楽曲

  • セレナーデ第1番ニ長調作品11
    • 3.5
難しいことを考えず心地よい音楽をくつろいで楽しめる。センスが良いので長くても飽きない。

  • セレナーデ第2番イ長調作品16
    • 3.0点
ヴァイオリンが無いので管楽器が大活躍。少し響きに慣れが必要だが、内容は一番同様に良い。

  • ハイドンの主題による変奏曲作品56a
    • 4.0点
なんといっても主題が魅力的。管弦楽のための変奏曲として、ヴァリエーションの豊富さ、ニュアンスの豊富さ、管弦楽らしい各種の管と弦楽合奏の共演という要素など、楽しくウキウキした気分で聴ける。

  • 大学祝典序曲作品80
    • 3点
大学生達の宿歌をつなげて作った序曲だが、対位法的な技法もうまく活用されていて、単なる明るい祝典序曲に留まらない音楽的豊かさがある。

  • 悲劇的序曲作品81
    • 3.0点
交響曲の一つの楽章のような曲。単一楽章なのでどうしても軽さがあり、深い所を繋げて展開していくストーリーを楽しむことが出来ないのだが、音楽的には充実していて、交響曲に匹敵している。

協奏曲

  • ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15
    • 5.0点
一楽章では若いロマンチックな情熱がほとばしり、二楽章では思慕と感傷的気分に浸りきるような気分を隠さない。ほとんど若気の至りで書いたようなほとばしる情感をそのまま露わにした曲。ブラームスの二度と来ない青春時代の精神をそのままストレートな率直に表現した曲として大きな魅力があると思う。その点でショパンのピアノ協奏曲と似たような魅力があると思う。

  • ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
    • 4.5点
4楽章あり、交響曲のように充実した協奏曲。ピアノが派手に全面に出て引っ張る感じでないが、実はとても演奏が難しいとのこと。明るく開放的でイタリア的であり、次々と惜しげなく後から投入していく発想の豊かさと規模感は交響曲以上である。自分の中では協奏曲らしい華やかさ重視で気楽に書いたのではと感じられて、やや即興的な印象がある。主要なピアノ協奏曲の中では最も演奏時間が長い力作だが、旋律の魅力が少し足りないなど、何か突き抜けたものがない作品でもあると思う。

  • ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
    • 5.5点
個人的にはヴァイオリン協奏曲の最高傑作だと思う。特に一楽章の重厚なオーケストラに乗せて情緒たっぷりにヴァイオリンを歌わせる手法と複雑な構成と展開の出来の良さは見事なもの。軽い曲が多いヴァイオリン協奏曲の中において、この曲が見せる深淵さを見せる大人の情緒が良い。二楽章の叙情性や三楽章の活発さも素晴らしい。

  • ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調作品102
    • 2.5点
他の管弦楽曲と比較して非常に渋い。独奏楽器が2つなので、CDて聴くとあまり独奏という感じがせず、オーケストラは協奏しているというより後ろで支えている感じ。大家の演奏で聴けば聴き映えはする堂々とした独奏パートでを楽しむことは出来るが。

室内楽曲

六重奏曲

  • 弦楽六重奏曲第1番変ロ長調作品18
    • 4.0点
重厚だが柔らかくて温かみがある。弦の多くて声部の制約なく自由に書いている。響きがブラームスに合っているし、声部の豊かさが叙情となって美しさを出している。特に一楽章はかなりの名作。三楽章以降はややレベルが落ちて普通の音楽になる。

  • 弦楽六重奏曲第2番ト長調作品36
    • 4.0点
瑞々しくて甘くて美しい叙情に溢れる魅力作。交響楽団のような音の厚みや豊かさと、室内楽の要素を併せ持ち、両方の良さを兼ね備えている。一楽章の湖のほとりのような美しさは印象的。それ以外の楽章も同じくらい充実してる。三楽章は泣ける。甘い思い出を振り返ったり、優しい気持ちを思い出すような感情の曲。

五重奏曲

  • 弦楽五重奏曲第1番ヘ長調作品88
    • 3.0点
響きの豊かさ、対旋律の豊富さ、ニュアンスの精妙さなど耳を楽しませる曲としての充実感は素晴らしいのだが、メロディーなど心に響く感じがあまりない。

  • 弦楽五重奏曲第2番ト長調作品111
    • 3.5点
音楽的な充実感が半端ない。五本の弦楽器を縦横に活用して、聴いていて楽しく耳を楽しませる熟練の技を楽しむ事が出来る。

  • ピアノ五重奏曲ヘ短調作品34
    • 3.0点
ある意味で中期までのブラームスらしさが最も典型的に詰まった曲だろう。重厚さ、情熱、憧れや諦めなどの感情、暗さなど。どちらかといえば若書きで練達の技術とまでいかず、分かりやすい魅力的な部分も少ない。人気曲で熱心なファンも高く評価する曲だが、正直個人的にはブラームスの室内楽のなかで上位とは思わない。

  • クラリネット五重奏曲ロ短調作品115
    • 5.5点
クラリネットの哀愁漂う音色と諦念に満ちた曲想を存分に楽しめる晩年の大傑作。最終楽章の変奏曲が多少平凡な気がするが、1から3楽章までは全てにおいて文句なし。ブラームスの代表作のひとつであるとともに、ロマン派の室内楽の最高傑作だろう。1楽章のイントロからインパクトがすごい。2楽章は特に、両端部分の旋律の絶妙さといい、名人芸的な中間部の魅力といい、圧倒的に優れている。

四重奏曲

  • 弦楽四重奏曲第1番ハ短調作品51-1
    • 2.5点
このようなブラームスの弦楽の室内楽らしい緊密なアンサンブルが生み出す音の分厚さで押していく曲想の場合、四重奏だと音が足りなくて欲求不満になる。曲としてもブラームスらしいというだけで強く耳を引く部分は特にないと思う。

  • 弦楽四重奏曲第2番イ短調作品51-2
    • 3.5点
1番と違い柔らかくてロマン派の情緒たっぷり。音の薄さが気にならない。1,2楽章の哀愁が良くてその余韻のまま最後まで聞かせる。

  • 弦楽四重奏曲第3番変ロ長調作品67
    • 3.5点
四声部に適合して弦楽四重奏らしい曲を書く点や、曲の作り込みとロマン的情緒の表現において進歩してる感じがある。特に二楽章はロマンチックな良い曲。他の楽章も充実感があり秀逸。

  • ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25
    • 3.5点
1楽章は実験的で聴いて楽しい曲とは思わない。二楽章はなかなかよい。三楽章の憧れに満ちた曲はぐっと胸に迫る。ここが一番の楽章。四楽章のジプシー風を活用した情熱的な音楽も面白い。この楽章は特にアンサンブルが効果的で生で聴いてみたい。

  • ピアノ四重奏曲第2番イ長調作品26
    • 3.0点
明るく朗らかで柔らかい響きが支配的で、心地よく聞ける曲である。一楽章のリズムなと分かりやすく耳を楽しませる場面は多い。ただ曲が長いしやや底が浅い感じもあり、ブラームスらしいコクがない。

  • ピアノ四重奏曲第3番ハ短調作品60
    • 3.5点
緊密で緊張感や悲劇的な雰囲気のある曲。無駄が少なく完成度は高い。その中で三楽章は耽美的な回想の雰囲気で心奪われる。

三重奏曲

  • ピアノ三重奏曲第1番ロ長調作品8
    • 3.5点
渋めの曲想で親しみやすくはないし、名作という程の楽章も無いが、どの楽章も内容は濃く充実してる。三重奏だが音は厚い。

  • ピアノ三重奏曲第2番ハ長調作品87
    • 2.5点
三楽章が多少いいかなという位。他の楽章は地味で、いい曲とまでいかないと思う。

  • ピアノ三重奏曲第3番ハ短調作品101
    • 3.0点
最終楽章の高揚感や、三楽章の変わった拍子での繊細さに魅力を感じた。前の二つの楽章もそれなりに魅力がある。

  • クラリネット三重奏曲イ短調作品114
    • 4.5点
ピアノが入っているので、五重奏にはない力強さがあり、一方でクラリネットソナタにはないアンサンブルの楽しさがある。諦観やほの暗い情熱など自分の気分を生々しく音楽にしたような感じ。ブラームスのクラリネット入りの曲の中では暗くて甘さが少なくて取っつきにくく、ずっと聞いていなかった。しかし、自分が歳をとってから聞き返したら、これは諦観の生々しさの魅力がクラリネット五重奏曲以上であり、本人同様に自分も三重奏曲の方が好きになった。ソナタの二重奏に1本のチェロが入っただけで、音の響きが立体的になり、それが全編にわたって大きな価値を生んでいる。

  • ホルン三重奏曲変ホ長調作品40
    • 3.0点
この曲を聴いてホルンとは哀愁ただよう渋さを持つ楽器だとイメージが変わったのは自分だけだろうか?最終楽章だけやたら明快で、それ以外は渋い内容。

二重奏曲

  • ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調作品78
    • 4.5点
柔らかくて穏やかなヴァイオリンが十分に歌うのを存分に楽しめる。あまり屈折していない爽やかさがベースにありながらも、複雑な大人の感情が取り込まれた音楽。ブラームスの重厚さが二重奏の場合は気にならず、カジュアルに楽しめる作品になっているのがおそらくヴァイオリン曲の最大の聞きやすさと成功の要因になっていると思う。3つの楽章が全て歌心に溢れており旋律の魅力が大きい。やや長いのでゆったりと心を曲の流れに浸して聴くことができる。

  • ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調作品100
    • 3.5点
明るくたくましい音楽。ヴァイオリンを豊かに力強く響かせる。あまり底が深い感じは無いが、その分気楽に聴ける。

  • ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調作品108
    • 4.0点
どの楽章も非常にメロディーがわかりやすく、感情移入しやすい曲。晩年らしい晦渋さは音楽的な重みとなって旋律が魅力的で、凝縮された音楽の力に圧倒される。

  • チェロ・ソナタ第1番ホ短調作品38
    • 3.5点
チェロの音色の甘さの活用は程々にして、渋い情熱的要素を重視しているのが心地よい。低音域の活用が上手い。ブラームス得意の耳をつくヴァイオリンの泣きの高音域が無いのが心地よくて好きだ。

  • チェロ・ソナタ第2番ヘ長調作品99
    • 2.5点
力強いし渋くて内容は充実しているのだが、楽想やメロディーが全体的に凡庸なのであまり楽しめない。

  • クラリネット・ソナタ第1番ヘ短調作品120-1
    • 4.0点
両端楽章がやや渋くて取っつきにくいが、中間の二つの楽章は孤独さや人生の回想を感じさせる魅力的な音楽。ヴァイオリンソナタと並んで、二重奏曲のソナタはブラームスは大変な名手だと感じる。よく手の込んだ工夫が凝らされた音楽でもあるように聞こえる名作である。

  • クラリネット・ソナタ第2番変ホ長調作品120-2
    • 4.0点
1楽章の甘美な回想の音楽はかなり魅力的。二楽章も甘くて強い回想。三楽章はいつもより控えめで雰囲気を壊さず終わる。クラリネットの甘さを生かし、すてきな歌心に溢れた名作。

ピアノ独奏曲

  • ピアノ・ソナタ第1番ハ長調作品1
    • 3.5点
交響的な四楽章、室内楽的な三楽章。内容豊富で快活で堂々とした一楽章はベートーベンの後継者らしい素晴らしさ。若書きの作品ながらシューマンのソナタにもひけを取らない良さ。

  • ピアノ・ソナタ第2番嬰ヘ短調作品2
    • 2.0点
3曲で最初に書かれたそうで、1番と比較するとこの曲は随分とありきたりの部分ばかりで面白くない。

  • ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調作品5
    • 2.5点
立派だが頑張っている若書き作品の感じが強い。二楽章の温かさとロマンチックさの共存は魅力。

  • 4つのバラード作品10
    • 3.0点
渋くて男臭い世界。渋さの中に隠された甘さが面白さの秘訣か。どの曲もそれなりのインスピレーションがあり、つまらない曲は無い。

  • 自作主題による変奏曲ニ長調作品21-1
    • 3.5点
叙情的で感動的な主題なので、しんみりとした気分になり感動する。

  • 2 ハンガリー民謡の主題による14の変奏曲作品21-2
    • 3.0点
ごく短い主題の変奏曲。出来はいいが主題が短すぎて習作の感がある。

  • シューマンの主題による変奏曲作品23
    • 3.0点
沈鬱でメランコリックな主題を使い、その気分をずっと引っ張りながら変奏していく。主題が素晴らしいので聴き映えはする。

  • ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ作品24
    • 4.0点
明るく明快でストレートで健康的。そして実に多彩で表情豊か。次々と楽しい変奏が現れてワクワクするので長い曲だが飽きない。書法ピアノ的でなかなか良い。

  • パガニーニの主題による変奏曲イ短調作品35
    • 3.5点
難曲で有名。リストやラフマニノフほど華麗ではなく、重々しいブラームスらしさはある。技術やフレーズの鋭さを楽しむ曲としてかなり良いが、観賞用音楽として音楽的内容の豊富さはヘンデルの主題の変奏曲より下だと思う。

  • 8つの小品作品76
    • 3.0点
様々な種類の曲で構成された8つの曲。曲に特別感は無いものの、小ぶりな小品はどれもブラームスらしい渋い詩情におり楽しめる。また曲がピアノ的になっている。

  • 2つのラプソディ作品79
    • 1番3.5点
室内楽のような楽想でややピアノ曲らしさに欠ける。多くの素材を使ってしっかりした構成で書かれており、中期以降にピアノソナタが無いブラームスだけに、ソナタの代わりになる曲。

    • 2番3.0点
立派な曲だが、1番と比べるとコンパクトであり、第一主題が次々と転調するものである、低音の面白いつかいかたの部分など、やや実験的である。

晩年の作品

  • 7つの幻想曲作品116
    • 3.3点
1曲目は交響的な響きと力強さと粘っこさ。2曲目の夜想曲のような雰囲気に込められた諦観。これらの曲は印象的なのだが、それ以降の5曲ははっきりしないモヤモヤとした雰囲気と面白くないメロディーだけの曲になってしまう。なんとなく美しく感じる場面はあるが、瞬間的なものに留まる。

  • 3つのインテルメッツオ作品117
    • 3.5点
三曲とも長めで穏やかで瞑想的で回想するような内容あり、枯れた味わいがあるので、晩年らしい作品となっている。

  • 6つの小品作品118
    • 3.0点
力強い曲もあるバランスの取れた曲集だが、何となく瞑想的だったり夢見るような場面が多いので晩年らしい。他の晩年の曲集と比較して何となく普通のレベルの曲が多い。

  • 4つの小品作品119
    • 3.5点
1,2曲目の特別感のある諦観にあふれた枯淡の境地は素晴らしい。そしえ四曲目の突然古い曲を持ち出したかのような、活き活きとしたカーニバルのような音楽には驚くが非常にいい曲である。

  • 最終更新:2022-05-03 15:29:07

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