ハイドン(クラヴィーア曲、声楽曲)

クラヴィーア曲

クラーヴィアソナタ

曲名につけている数字は、前半がホーボーケン番号で、後半がランドン版による番号である。

ハイドンのソナタは、モーツァルトのソナタのように個別的な個性があったり、心を虜にするような愛らしさと旋律美のような強烈な魅力があるわけではない。しかし、ハイドンらしい素朴な暖かさや成熟感は魅力があり、地味さに耳が慣れると、なかなか楽しめる佳作が揃っていると思う。

1番から20番まで

  • ピアノソナタ第1番 ハ長調 第10番 1750-55?
    • 3.5
シンプルな短いソナタ。古典的な簡素さの美に感動する。3楽章もそれなりに良い曲だが、特に1楽章と2楽章が良い。1楽章も3楽章も短調に転じるのが面白い。いずれにせよ、バロック的なシンプルな美しさが素晴らしい。初期の中でも心に響く曲。

  • ピアノソナタ第2番 変ロ長調 第11番 作曲年不明
    • 3.0点
1番と比べると各楽章が長く感じる。2楽章のモーツァルト顔負けの憂愁。半音階的で驚く。1楽章の滋味。3楽章は急速でなく時計のような歩みの進行であり、ハイドンらしい時計的な詩情を見せる。

  • ピアノソナタ第3番 ハ長調 第14番 1765?
    • 2.8点
素朴でシンプルなソナタ。バロックの香りを放つ素朴な味わいは悪くないが、それ以上の何かは無い。

  • ピアノソナタ第4番 ニ長調 第9番 1765頃?-1772
    • 2.5点
6分2楽章の短いソナタ。あまりに簡潔で、音楽的にもあまり目立つ良さは無い。ハイドンらしい良さはこの曲にもあるが、物足りない。

  • ピアノソナタ第5番 イ長調 第8番 作曲年不明
    • 2.8点
爽やかで内容もそれなりに盛り込まれた短い曲。歯切れの良さが魅力。しかし、旋律の魅力にどことない物足りなさを感じる。

  • ピアノソナタ第6番 ト長調 第13番
    • 2.8点
いかにもチェンバロ用の曲。4楽章。簡素な曲だが、憂いをたっぷり聴かせる短調の3楽章が独特のバロック的美しさで心に響く。他の楽章は普通。

  • ピアノソナタ第7番 ハ長調 第2番 1750頃?
    • 2.5点
簡素な曲。特に3楽章はあっという間に終わる。旋律の魅力が足りず、未成熟を感じる。

  • ピアノソナタ第8番 ト長調 第1番
    • 3.0点
7番同様にものすごく短い曲。7番より歌心を感じて、ピアノフォルテらしい音の動きを楽しめる。

  • ピアノソナタ第9番 ヘ長調 第3番 1766/1760? 
    • 2.8点
2楽章がやや長くて冗長に感じるが他はシンプル。これもピアノフォルテらしい音の動きを楽しむ曲。

  • ピアノソナタ第10番 ハ長調 第6番 作曲年不明
    • 2.5点
9番までと比較して長くて構成が大きいのだが、響きを単純に楽しむ素朴さが損なわれている。旋律があまり良くないと音感の良さも微妙なのが気になる。

  • ピアノソナタ第11番 ト長調 第5番
    • 3.0点
2楽章がなかなか美しい。3楽章はいろいろ詰まっていて楽しく、コンセプトは良いが、大成功とはいかないと思う。1楽章は並。

  • ピアノソナタ第12番 イ長調 第12番
    • 3.0点
スローテンポから段々早くなる曲。1楽章が美しい。他は並。

  • ピアノソナタ第13番 ホ長調 第15番 1766/1760?
    • 2.8点
1楽章は重厚な和音が登場して驚く。2楽章などにも、ところどころ初期にはない古典派の後期のような響きが登場する。順番に聴いたら目新しく感じるが、曲としてはいまいち魅力が足りない。

  • ピアノソナタ第14番 ニ長調 第16番 作曲年不明
    • 2.8点
過渡的という言葉がついよぎってしまう曲。いろいろとピアニスティックではあるが、曲として十分に使いこなせていないように聴こえる。

  • ピアノソナタ第15番 ハ長調 op.41-3 Divertimento Hob.II:11の編曲。偽作。

  • ピアノソナタ第16番 変ホ長調 1750-55?

  • ピアノソナタ第17番 変ロ長調 op.53-1 作曲年不明 近年では、J.G.シュヴァンベルガーによるものであると判明

  • ピアノソナタ第18番 変ロ長調 第20番 作曲年不明 偽作。

  • ピアノソナタ第19番 ニ長調 op.53-2 第30番 1767 偽作

  • ピアノソナタ第20番 ハ短調 op.30-6 第33番 1771
    • 3.8点
1楽章が序奏付き。短調の曲という目新しさがある。モーツァルトの幻想曲のような哀しく切ない歌の音楽。2楽章も深く沈み込むような感じときらめくような美しいに溢れたロマンティックな曲。3楽章もそれをうけた見事な内容。このような特殊な曲を高く評価するのは自分でも良いのか悩むが、感動するのだからしょうがない。

21番から40番まで

  • ピアノソナタ第21番 ハ長調 op.13-1 第36番 1773
    • 3.3点
1楽章の執拗な跳ねるリズムは、ハイドンにしては非常に特異な音楽である。効果のほどを高く評価したい出来ではないが、とにかく印象に残る。2楽章はオーソドックスだが、なかなか叙情的で美しい歌心のある曲。3楽章もオーソドックスでなかなか楽しくて、ハイドンらしい素朴さが過剰でない演出となりいい味を出している。

  • ピアノソナタ第22番 ホ長調 op.13-2 第37番
    • 3.3点
1楽章は普通。2楽章はかなり沈み込んだ悲痛の感情に支配された曲。3楽章はそれを受けたしみじみとした晴れやかさのある曲。突発的な激情も挟まれる。ロマン派の息吹を感じる。

  • ピアノソナタ第23番 ヘ長調 op.13-3 第38番
    • 3.3点
1楽章の活発な運動性や展開力は、それだけで楽しめるもの。短調の2楽章も3楽章の意外性のある音の動きの運動性も楽しい。表現の幅があり、滋味も裏にもっていて成熟感がある。

  • ピアノソナタ第24番 ニ長調 op.13-4 第39番 1773?
    • 3.0点
1楽章は活発だがいまいちピンとこない曲。2楽章は短調で歌謡的でモーツァルトのように美しい。3楽章は音の動きで押す曲だが、これも旋律としてはあまりピンとこない。

  • ピアノソナタ第25番 変ホ長調 op.13-5 第40番
    • 3.3点
1楽章は広がり感があるソナタ。多くのものが詰め込まれている、がっちりとしたソナタでハイドンらしい魅力がある。2楽章が非常に短く、そのまま終わるという構成に驚く。

  • ピアノソナタ第26番 イ長調 op.13-6 第41番 1773
    • 2.8点
1楽章は多くが詰め込まれているが、旋律の魅力をあまり感じない。2楽章もあまり旋律の魅力がない。3楽章はスケール主体であっという間に終わる。

  • ピアノソナタ第27番 ト長調 op.14-1 第42番 1774-1776?
    • 3.0点
1楽章は音の動きを止めない勢いの良さでソナタを作っている楽しさ。2楽章と3楽章は中庸で特徴が薄い。

  • ピアノソナタ第28番 変ホ長調 op.14-2 第43番
    • 3.0点
1楽章と2楽章は中庸であり、内容はあるが取り立てた特徴を感じない。3楽章は面白い音の動きでテキパキした雰囲気を楽しめる。

  • ピアノソナタ第29番 ヘ長調 op.14-3 第44番 1774
    • 2.8点
1楽章はふわっとしたつかみどころの分かりにくい曲。2楽章は古典派らしい素朴さだが、構成は大きくバラエティがある。3楽章がうろうろした感じのとりとめもない音楽。

  • ピアノソナタ第30番 イ長調 op.14-4 第45番 1774-1776
    • 3.0点
1楽章は冒頭の第一主題の軽快さが魅力だが、それだけでない多様な表情を持つ。2楽章は2声部でごくシンプルだが、陰翳のある示唆的な曲。前奏の役割。3楽章はそのまま2声部で続けて始まる。和音は登場するが、2声部でバロックみたいなのは変わらない。うまく言えないが独特の穏やかな浮遊感のようなものがる変奏曲。

  • ピアノソナタ第31番 ホ長調 op.14-5 第46番
    • 2.5点
1楽章と2楽章は素朴で穏やかななだけであまり面白くない。3楽章は活発でシンプルにすぐ終わる。

  • ピアノソナタ第32番 ロ短調 op.14-6 第47番
    • 3.0点
1楽章はしっかり書かれているが、学習用に感じてしまう。2楽章も似た印象。3楽章は短調の切迫感を演出する。モーツァルトの8番のソナタの3楽章を連想する。

  • ピアノソナタ第33番 ニ長調 op.41-1 第34番 1778以前?
    • 3.0点
オーソドックスでどの楽章も悪くはない。しかし、学習用のシンプルな曲という印象である。

  • ピアノソナタ第34番 ホ短調 op.42 第53番 1783/84 
    • 3.3点
1楽章は悪魔的な魅力も見せている。3楽章の迫り来る哀愁も良い。モーツァルトのピアノソナタ8番を想起する。

  • ピアノソナタ第35番 ハ長調 op.30-1 第48番 作曲年不明
    • 3.0点
ソナチネアルバムの曲。教育的な曲の印象が強い。1楽章は三連符の伴奏が珍しくて印象的。2楽章は単純でアルベリティ・バスの上のメロディーが続く。3楽章は軽快な音の動きの曲。コンパクトでよくまとまっていて、難易度が低く、どの楽章もハイドンの中では正統派なのが良いところであり、有名な理由だろう。しかし、ハイドンのソナタの中で特段この曲が優れているというわけではないと思う。自分も昔の学習時に弾いた時は好きだった曲だが、いま観賞用として聴くと代表作とは思わない。

  • ピアノソナタ第36番 嬰ハ短調 op.30-2 第49番
    • 3.5点
1楽章はきっちりと重厚に書かれた悲しみの表現。2楽章も元気のよいのもよい。感動的なのは3楽章。芸術性の香りの高い、悲しみをこらえるような静謐さが非常に強く心を捉えて離さない。この楽章の順番がマジックを起こしている。

  • ピアノソナタ第37番 ニ長調 op.30-3 第50番
    • 3.5点
1楽章はピアノ版の祝典曲かと思うほど威勢がよく技巧的で華やかな曲。音の洪水に圧倒される。2楽章はその反動で極めておとなしくて静謐な曲。3楽章は中庸になるわけだが、これもよくできた楽章である。刺激的な動機を使いつつ、詩的な情緒性も感じる。

  • ピアノソナタ第38番 変ホ長調 op.30-4 第51番 1779-1780
    • 3.5点
1楽章は中庸な速度のソナタとして規模が大きくバランスが取られた立派な曲。2楽章は短調。過度でない程度に感情的なものが盛り込まれており、音の美しさを存分に聴かせる曲。3楽章はそれをうけて悟ったような雰囲気を醸し出す、余韻に浸りながら気分を上昇させていく変奏曲。

  • ピアノソナタ第39番 ト長調 op.30-5 第52番
    • 3.0点
1楽章はコンパクトで柔らさのある曲。2楽章は穏やかな気分になる。初学者が弾くには良さそう。3楽章は素直で程よい運動性であり、やはり弾くと楽しそう。

  • ピアノソナタ第40番 ト長調 op.37-1 第54番 作曲年不明
    • 3.3点
穏やかで愛らしさと味のある変奏曲。大きな激しさは瞬間的にしかみせないまま続くが、曲調に身を浸して楽しめる。ただ、少し長すぎるとは思う。2楽章はめまぐるしく活発な音の動きで、それを追いかけていくだけで楽しめる。

41番以降

  • ピアノソナタ第41番 変ロ長調 op.37-2 第55番
    • 3.0点
ピアノフォルテでなくピアノ的な書法と感じる。1楽章は中庸で悪くないが特徴は少ない。2楽章は非常にめまぐるしさくて楽しい。どちらもメロディーの特徴は少ないが、ソナタを順番に聴くなかでは書法の変化の楽しみがある。

  • ピアノソナタ第42番 ニ長調 op.37-3 第56番
    • 3.8点
1楽章は非常に雄弁であるとともに、シューベルトのような淡く儚い美しさを感じさせる名曲。主題は非常に美しい。2楽章はごく短く、締めのためだけに存在する。この構成じたいが、ハイドンが1楽章を名曲と考えていた証拠である。

  • ピアノソナタ第43番 変イ長調 op.41-4 第35番
    • 3.0点
どの楽章も、なんというか普通で特別感がない。とても中庸な安心感はあるのだが、刺激がなさすぎて物足りない。棘のない音楽だし、ありきたりなつまらなさがあるわけではないのだが。

  • ピアノソナタ第44番 ト短調 op.54-1 第32番
    • 3.3点
1楽章はすぐ長調になってしまう普通の曲だが、シンプルな書法に歌心が忍ばせてあり、なかなかよい。2楽章が短調の美しさを活かしていて、陰影がありながらも冷静で感情に溺れないのがよい。

  • ピアノソナタ第45番 変ホ長調 op.54-2 第29番 1766
    • 3.3点
素朴な書法でハイドンの中ではミニマルな音という印象である。しかし3楽章は工夫が多くあって、驚きが多く感じられて楽しめる。思わず聴き入ってしまうものがある。

  • ピアノソナタ第46番 変イ長調 op.54-3 第31番 作曲年不明
    • 3.5点
1楽章は規模が大きい。それに見合った内容があり満足できる。静かでしなやかな感受性に満ちた柔らかい曲。2楽章は非常に美しくて、強い感動に心を揺さぶられる。ここまで深い精神世界にハイドンが入り込んだかと感動する。3楽章は標準的な内容であり、快速にきっちり締める。

  • ピアノソナタ第47番 ヘ長調 op.55 第57番 1788
    • 3.0点
1楽章は語法や同じ雰囲気が続くところなど、バッハのプレリュードみたいだと思った。2楽章はとても静かで間を使った曲。3楽章も活発だが派手なのは一部であり控えめな曲。

  • ピアノソナタ第48番 ハ長調 op.89 第58番 1789
    • 3.0点
1楽章は幻想曲のような趣き。自由な心の動きをそのまま音楽でなぞったようだ。ハイドンにしては目新しく感じる。2楽章はほのかな高揚感のある曲であり、展開をそれなりに楽しめる。

  • ピアノソナタ第49番 変ホ長調 op.66 第59番 1789-90 
    • 3.5点
1楽章はハイドンらしい主題の魅力と構成のがっちりした印象で正統派の良さがある。2楽章も規模が大きく、ベートーヴェンの中期に近い充実感。音の響きかたもベートーヴェンにかなり似ている。静けさと、胸の膨らむような広がり感とパーソナルな領域に入り込む感情を両立している。3楽章も冷静で雰囲気は悪くないが、他の楽章ほどの充実感はない。もっと盛り上げてほしかった。

  • ピアノソナタ第50番 ハ長調 op.79 第60番 1794-95頃
    • 3.3点
1楽章はピアニスティックな発想で書かれた大規模な曲。2楽章は初期ベートーヴェンみたいな曲で、若々しく新鮮で気持ちが良い 。ピアノの響きを生かしてる緩徐楽章で美しい曲。3楽章はピアノの機能を使うことに主眼がある曲で今までのソナタの最終楽章と音の使い方が違うように感じる。動機の使い方の成熟した自由さがある。

  • ピアノソナタ第51番 ニ長調 op.93 第61番
    • 3.5点
1楽章はピアニスティックさがありつつも、曲の長さがコンパクトでありよくまとまっていて、聴きやすい。2楽章は適度に活発であり、複雑性も良い感じであり聴きやすい。この楽章もコンパクト。51番は旋律に大きな魅力があるという印象ではないが、50番と52番の大作に挟まれた小さな作品として独自の価値がある。

  • ピアノソナタ第52番 変ホ長調 op.82 第62番 1794
    • 3.5点
ベートーベン初期やクレメンティを彷彿とさせるクラーヴィア曲のテクニックを豊富に活用し、主題の豊富さとスケールの大きさで聴かせる曲。50番以上に規模の雄大さと、楽器の進化にともなう書法の可能性の探求をさらに進めており、もはや完全にベートーヴェンの世界になっている。ピアノの機能と響きを楽しみ、その可能性を試して音楽を作る方向になって。1楽章は壮大にして雄大なソナタ。2楽章の小さな音の残響の産み出す詩的情緒の美しさは特筆もの。非常に規模が大きい。3楽章はピアニスティックで爽快さと性急さが主体だが、それ一辺倒にならないように構成されて締めくくり感を演出している。1番の驚きは、60歳を過ぎて新しい楽器の機能を理解して、それに適応した構造の語法のそれまでと別世界である音楽を書くことに成功していることである。頭が柔らかいなと思う。

声楽曲

  • スコットランド民謡集
    • 4.0点
ホーボーケン番号で273曲。これがとにかく素晴らしい。ピアノ三重奏による伴奏による歌心あふれる曲は、癒される度合いは半端ない。素朴な味は心の故郷に帰った気分になる。これこそが歌、これぞ「The 音楽の楽しみ」とまで思ってしまう。聴ききれないほどの大量さで、まさに宝の山である。あまりに良すぎてテンションが上がってしまう。ちなみに後任のベートーヴェンの民謡集は面白くなかった。

  • ウェールズ民謡集
    • 4.0点
少し聴いただけだが、スコットランド民謡集と同様に素晴らしい。

宗教曲

オラトリオ

  • オラトリオ『トビアの帰還』 Hob.xxI-1
    • 4.0点
晩年の2大オラトリオとは全然違う。この曲はとても楽しめた。輝かしいコロラトゥーラと、華やかでイタリア的で舞台的なワクワク感は素晴らしい。エンターテイメント曲として楽しめる。ハイドンのオペラを見てみたくなる。次から次へと若々しくて驚くほど楽しい音楽が飛び出すから、心が躍りながら聴ける。モーツァルトのオペラが好きな人はぜひ聴いてみるべきだと思う。3時間は長いが苦痛を感じない。交響曲をたくさん聴き漁るようなものだ。レティタティーボが入っているのが息抜きとして良い。

  • オラトリオ『天地創造』 Hob.xxI-2
    • 3.5点
ハイドン渾身の大作。ストーリー性のある音楽であり、オペラに近い雰囲気であり、開放的で明るい。個人的にはやはり、ハイドンの芸風と持ち味からすると少し外れた部分を狙った音楽になっていると思う。ハイドンの最良であるいくつかのモノを感じられない。スケール感や機転や温かさなどである。立派な大作であるものの、ヘンデルのオラトリオやモーツァルトのオペラの良さと比較すると少し落ちると思う。これは実力や労力の問題でなく、相性の問題だろう。

  • オラトリオ『四季』 Hob.xxI-3
    • 3.8点
天地創造よりも壮大で力強くドラマティックであり、良さが分かりやすい。長丁場を面白く聴ける。舞台的ではないが描写的な場面は多い。音楽の活力が、長年で鍛えられた作曲能力をさらに一歩先に進める形で披露されている。古典派の語法で書かれたオラトリオとして、見事な出来である。天地創造より楽しい。大作でありながらどこを切ってもハイクオリティなのが凄い。

  • 十字架上の七つの言葉
    • 4.0点
オラトリオ版。各曲がずっしりと重たく、骨太でがっちりしており、壮大なスケールを持ち、メロディーが充実しており、まさに巨匠に相応しい出来となっている。遅い楽章ばかりで、変化に富んでいるとは言えないが、飽きないための工夫はされており、音楽自体の充実感とあいまって、じっくりと楽しんでは最後まで聞ける作品である。最後のコラールでまた感動。

ミサ曲

ハイドンの後期のミサ曲は気宇広大にして壮大で骨太な音楽の中に詩魂をいかんなく発揮した、すばらしい音楽である。アイデアが沢山詰め込まれていて飽きさせない。室内楽との違いは驚くべきであり、作曲家としてのスケールの大きさを感じる。同じミサ曲でも非常に人間臭くてドラマチックなモーツァルトのそれとはかなり印象が違う。前期はまたぜんぜん違うバロックに近い雰囲気だが、それはそれで非常に素晴らしい。

  • ミサ曲第1番 ヘ長調 ミサ・プレヴィス Hob.XXII-1
    • 3.3点
各曲が短いため、コンパクトな仕上がりである。そして、素朴すぎて普通の作品とはだいぶ雰囲気が違う。自分だけかもしれないが、シンプルな音使いに前期バロックを連想するほどである。その点で独特で面白いとはおもうが、やはり完成度や質はまだ十分な高みには達していないと思う。とはいえ聞いていて楽しめないレベルでは全然なく、十分に面白い曲として聴ける。

  • ミサ曲 ト長調
    • 3.5点
非常に短い曲の集合で書かれた曲。全部で8分しかない。とてもコンパクトで聴きやすいし、活力のある様々な曲がある。ダイジェスト版という感じで楽しく聴ける。初期らしい聖なる雰囲気の魅力を他と同様に持っている。短いだけで決して良さは同様だと思う。

  • ミサ曲第2番 変ホ長調 祝福された聖処女マリアへの讃美のミサ Hob.XXII-4
    • 3.8点
初期のミサ曲の、素朴さと宗教的な雰囲気の魅力はここでも溢れている。クリスマスの音楽かと思うような聖なる雰囲気に満ちていて楽しい。バロックのような素朴な陰影感も楽しめるもの。3番と違い一曲が長い作品だが、聞いていて全然飽きなくて続きが楽しみでしょうがない気分で聴ける。自分で演奏したらどう感じるのか分からないが、音源を聴いている限りは後期の傑作とは違う意味で同じくらいの魅力を感じる。

  • ミサ曲第3番 ハ長調 聖チェチリア・ミサ Hob.XXII-5
    • 4.0点
ミサ曲の中でこの曲だけ曲数が多い。これはものすごい力作であり、非常に感動的だ。交響曲の感覚では1765年はまだ初期であるが、実際には精神的に充実した一流の作曲家なのだと思い知らされる。バロックの息吹が感じられる響きや音楽の作りがまた素敵だ。バッハやヘンデルを思い起こす場面がある。ミサ曲らしい敬虔さや聖なる雰囲気と、それに加えた高揚感が楽しませる。曲のバラエティーの楽しさもあり、バッハのロ短調ミサ曲の有力な対抗馬とさえ言いたくなるほどだ。

  • ミサ曲第4番 ト長調 聖ニコライ・ミサ Hob.XXII-6
    • 3.5点
バランスが良くてバラエティーに富んだ曲。バロックに近い素朴さが良い味になっていて、後期とは違う魅力になっている。敬虔さに感動させられる、宗教的な雰囲気が強くてミサ曲らしさがある。最後には強い感動で終わる。

  • ミサ曲第5番 変ロ長調 小オルガン・ミサ Hob.XXII-7
    • 3.5点
瑞々しい繊細な感受性の表現が光る作品。冒頭から感傷的とも言える繊細さにおおっとなる。後期ほどの音の密度ではないにせよ、魅力でいえば同じくらいあるように感じられる。オルガンが大活躍でしんみりと敬虔な気分にさせるのが、また素敵である。最後の曲までも静謐である。

  • ミサ曲第6番 ハ長調 マリアツェル・ミサ Hob.XXII-8
    • 3.3点
いい曲ではあるが、やはり後期の高みに登っている感がない。立派だが予想の範囲内であり、立体的な深みがない。とはいえ、対位法など聴きどころは多少はある。明るくて輝かしくて力強い曲。

  • ミサ曲第7番 ハ長調 戦時のミサ Hob.XXII-9
    • 3.5点
後期のミサ曲の中で、充実度は変わらないが、なんとなくこの後のさらなる成長をみせる名作を予見させる作品というように聴いてしまう。どの曲も良いのだが、これは最高に良いという曲がなく、平均以上が続くように感じられる。濃厚さが少なくて、後期のミサ曲の中では少しだけあっさりしているようにも感じられる。

  • ミサ曲第8番 変ロ長調 オフィダの聖ベルナルトの讃美のミサ Hob.XXII-10
    • 3.8点
立派で壮大な作品であるが、前半部分はやや立体的な奥深さには欠けるように思った。もちろん、このあとの驚異的な数作と比較しての話だが。そして後半はしなやかで敬虔さにあふれる音楽に変貌して感動に包んで最後を締めくくってくれる。驚くべき名作という聴後感を与えてくれる。構成が見事であり、充実感のある曲。

  • ミサ曲第9番 ニ短調 ネルソン・ミサ Hob.XXII-11
    • 4.0点
ハイドンにしては非常に劇的であり、ロマンティックささえも感じる作品で、モーツァルトの短調の曲を連想する。それと同時にハイドンらしい格調高い立派さに溢れている。多くの楽想はいずれも素晴らしい表現の力強さに満ちており、確信に満ちた輝かしさも感じる。そのような方向性の作品としては確実にハイドンの作品の中で頭ひとつ抜けた曲だろう。とにかく充実した立派で劇的な作品。

  • ミサ曲第10番 変ロ長調 テレジア・ミサ Hob.XXII-12
    • 4.0点
壮大に全体を包み込むような大きな包容力、気宇広大さ、敬虔さと優しさ、そういったものに心を委ね、時に圧倒される楽しさに満ちた曲。1曲目から何度も聴いているうちに、すっかり好きになってしまった。旋律も全体的に魅力的であり、多くの楽想が詰まっている。内容の充実感でいえば交響曲よりかなり上という気がする。

  • ミサ曲第11番 変ロ長調 天地創造 Hob.XXII-13
    • 3.8点
すっきりした壮大さと、明快な明るい感じが全体の雰囲気になっている。しかし、シンプルすぎて深みや陰影がやや欠けるかなとは思う。10番ほどの名作には感じられない。しかし、5曲目と6曲目がしなやかで感傷的な感動的な曲。前半の物足りなさを吹き飛ばしてくれる。

  • ミサ曲第12番 変ロ長調 ハルモニー・ミサ Hob.XXII-14
    • 3.3点
とても立派なのだが、全体に立派なだけという印象を持ってしまった。心に残る場面は少ない。充実感はもちろんあるが、それだけではやはり満足に限界がある。

宗教曲

  • テ・デウム ハ長調 Hob.XXIIIc-2

  • スターバト・マーテル
    • 3.5点
爽やかさと活力のある敬虔さともいうべき雰囲気が楽しめる音楽。正攻法で魅了がある古典派宗教曲の良作だと思う。音楽として楽しいから長さが全然苦にならない。シンプルではあるが、音楽の情報量は十分に多い。どの曲も音の作る雰囲気に心がウキウキしながら聴ける。宗教的すぎないが、十分に敬虔な気持ちにさせるものがあり、そのバランスが良い。

  • サルヴェ・レジーナ
    • 3.0点
オルガンの活躍が面白い。ハイドンにしてはかなり深刻な音楽。悲しみに満ちている真剣な音楽。しかし、短いせいかもしれないが、なぜか不思議と心を強くは打たなかった。

  • 最終更新:2016-02-20 18:25:37

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